東京高等裁判所 昭和51年(ネ)1573号 判決
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【判旨】
<証拠>によれば、
一右訴外会社は上下水道給排水設備工事の請負、土木建築一式工事の請負を業とする資本の額三〇〇万円の小規模の企業であるところ、本件各手形振出当時(昭和五〇年一〇月初旬)控訴人らはいずれも右訴外会社の代表取締役であり(右振出当時控訴人らが訴外会社の代表取締役であつたことは当事者間に争いがない。)控訴人船本は同会社の経理面を、控訴人小林は同会社の工事面をそれぞれ担当していたものであること、
二右訴外会社は、本件手形振出当時経済不況のあおりを受けて工事の受注量が極めて少くなり、負債がかさんで経営が悪化し、資金繰りが苦しく従業員に対する給料にもこと欠く状況にあつたため(訴外会社のその頃の唯一の取引金融機関である訴外葛飾商工信用組合に対する当座預金残高は、昭和五〇年九月中旬以降同年一一月下旬解約、取引停止となるまでの間同年一一月中旬の一時期数万円であつたことを除いては常時数千円にすぎなかつた。)、控訴人船本は右訴外会社のため訴外国民金融公庫から同訴外会社の営業資金として三〇〇万円の融資を依頼し、これが実現をみるまでのつなぎ資金とするため訴外真家進に金策方を依頼して、同訴外人に右訴外会社の代表取締役として前代表取締役亡訴外佐久間盛睦名義を用いた本件各手形を交付したものであること、しかるに、同訴外人は訴外森口工業株式会社に金融をえさせるため訴外出水某を介して同訴外会社にこれを交付し、同訴外会社はおそくとも昭和五〇年一一月下旬頃までに被控訴人から本件各手形の満期日までの割引料を支払つてその割引を受け、これを裏書譲渡し、右割引金を経営資金として費消し、結局訴外佐久間工務店には全く入金がなく、なお、被控訴人は本件各手形割引にあたり、訴外森口工業の代表者森口万雄から商業手形であるとの説明を受け、これを信じて割り引いたものであること、右のように訴外佐久間工務店はその経営が悪化し資金繰りが苦しく、右公庫からの融資についても当時これをえられる確実性があつた訳ではなく(結局融資はえられなかつた。)、本件各手形が他に廻つた場合、右訴外会社においてこれを決済しうる見込みはなかつたこと、
三前記のとおり訴外佐久間工務店は、昭和五〇年一一月下旬その唯一の取引金融機関である葛飾商工信用組合との取引は解約、停止となつて倒産し、本件額面八五万五〇〇〇円の手形は満期日である昭和五〇年一二月一〇日に、額面二〇〇万円の手形は満期日である昭和五〇年一二月一五日に、そして額面九二万八〇〇〇円の手形は満期日の翌日である昭和五一年一月二六日にそれぞれその支払場所である右組合に呈示されたがもとより不渡となり(なお、前記訴外森口工業も昭和五〇年一一月下旬に倒産した。)、結局被控訴人は、本件各手形の支払を受けることができず、本件各手形金合計額相当の三七八万三〇〇〇円の損害を被つたこと、
四控訴人小林は、前記のとおり本件各手形振出当時訴外佐久間工務店の代表取締役の地位にあつたが、自らは工事面を担当し、経理面についてはこれを控訴人船本に任せて何ら意を用いなかつたこと、したがつて控訴人船本の本件手形振出は知らなかつたこと
以上の諸事実が認められ、<証拠判断略>。
右事実によれば、本件各手形振出当時訴外佐久間工務店の資産状態は極度に悪く、他からの融資に確実性があつた訳ではなく(前記のとおり結局融資はえられないまま倒産するに至つた。)手形を振り出しても不渡になることは容易に予見できる状況にありながら控訴人船本は敢て本件各手形を振り出したものであるから、同控訴人には同訴外会社の代表取締役としてその職務を執行するにつき重大な過失があつたものといえ、したがつて同控訴人は、商法二六六条の三の規定により被控訴人に対し、その被つた損害を賠償すべき責任がある。
また、控訴人小林は前記のとおり控訴人船本の本件各手形振出を知らなかつたものではあるが、しかし、控訴人小林は、訴外佐久間工務店の代表取締役として訴外会社の業務執行全般について職責を負い、他の代表取締役である控訴人船本の業務執行をも監視警戒しその違法行為を未然に防止すべき義務があるものというべく、しかるに同訴外会社の経理面については控訴人船本に任せてこれに意を用いず、右義務を著しく怠り、控訴人船本の本件各手形振出を看過し防止することができなかつたものであつて、この点訴外人小林にその職務の執行につき重大な過失があつたものといえ、したがつて、控訴人小林は、商法二六六条の三の規定により被控訴人に対し、その被つた損害を賠償すべき責任を免れることはできない。
(小林信次 鈴木弘 河本誠之)